The Workplace Advisors、コンプライアンス担当副社長、ペイジ・マカリスター
私は日々、多くのクライアントから「業績不振」「度重なる欠勤」「性格の不一致」といった理由で従業員を解雇したい、という相談を受けています。
彼らが懸念しているのはもっともなことで、期待に応えない従業員を抱え続けることによる事業への悪影響と、訴訟リスクが高まる今の時代に解雇することのリスク、その両方です。
この状況は“どちらを選んでも損をする”ように感じられ、判断を先延ばしにしてしまうケースも少なくありません。その結果、生産性や売上の低下、優秀な人材の離職増加といった問題につながることもあります。
よく聞くのが、
「アメリカは employment-at-will(随意雇用)ですよね? それなら、いつでもどんな理由でも解雇できるのでは?」
という質問です。技術的には正しいものの、その理由が差別的であってはならないという重要な前提があります。さらに、事実関係に関わらず、誰でも「差別を受けた」として訴訟を起こすことは可能です。
万が一申し立てがなされた場合、雇用主は「なぜその判断をしたのか」「連邦・州・自治体法で保護されている特性(人種、宗教、妊娠、性的指向、出身国、年齢、障がい、遺伝情報、軍歴・退役軍人であることなど)とは無関係である」ことを証明しなければなりません。
こうした雇用判断をさらに難しくしているのが、差別や保護対象を巡る政治的・社会的な対立の激化です。
トランプ大統領による連邦政府内の DEI(多様性・公平性・包括性)施策を撤廃する大統領令は、DEI と「反ウォーク(anti-woke)」思想の間にある文化的対立を象徴しています。その結果、本来は複雑な判断であるはずの雇用決定が、「人種」や「性別」といった単一の要素に矮小化されがちです。
このような環境では、たとえ判断の背景に正当な理由があったとしても、解雇された従業員が差別を理由に訴訟を起こす可能性は、以前にも増して高まっています。
近年では、**逆差別(リバース・ディスクリミネーション)**の訴えも増加しています。これは、法的に保護されていない特性を理由に不利益を受けた、あるいは保護対象ではないがゆえにより厳しい基準を課された、と主張するものです。
最近の Ames v. Ohio Department of Youth Services における米連邦最高裁の全会一致判決では、タイトルVII(公民権法第7編)は多数派に属する人々に対して、より高い立証基準を課すものではないと明確にされました。
これまで下級審が逆差別訴訟で求めてきた「背景事情(background circumstances)」という追加要件も否定され、タイトルVIIは「集団」ではなく「個人」に焦点を当てる法律であることが再確認されました。つまり、すべてのケースは個別の事情に基づいて判断されるべきだ、ということです。
雇用主が自社を守るための4つのポイント
結論から言えば、どんな理由であれ、また主張がどれほど根拠薄弱に見えたとしても、従業員や応募者が差別の申し立てや訴訟を起こすことを完全に防ぐ方法はありません。
雇用主にできる最善の対策は、意思決定のプロセス全体を通じて、防御のための証拠を継続的に積み上げていくことです。
そのために重要なのが、以下の取り組みです。
1. 正確かつ包括的な職務記述書の作成
すべての職種ごとに、そのポジションに本当に必要な要件を明確にした職務記述書を作成しましょう。
業務内容、経験、学歴だけでなく、身体的・精神的・環境的要件、期待される行動や頻度など、職務遂行に不可欠な要素を具体的に記載することが重要です。会社にとって都合の良い「理想条件の羅列」ではなく、実際の職務に不可欠な内容でなければなりません。
2. 公平で偏りのない採用
実務的かつ公正な採用プロセスを構築し、面接官や選考担当者には法令順守のトレーニングを行いましょう。
犯罪歴、信用情報、リファレンスチェックなど、適切なバックグラウンドチェックを実施し、どの情報を採用判断に使えるかは雇用法に基づいて判断します。
また、妥当性のある行動特性アセスメントを活用し、候補者が成功しやすい特性を持っているかを見極めることも有効です。
3. 雇用上の判断をすべて記録する
良い評価も悪い評価も、軽微な問題も重大な問題も、初回の出来事も最終警告も、すべて文書化しましょう。
雇用判断そのものに必須でなくても、訴訟時の防御資料として求められることがあります。事後的に作成することはできません。
評価書や懲戒プロセスの文書には、
・期待値の明確化
・その期待に対する評価
・改善点と支援策
・改善されなかった場合の結果
が一貫して示されている必要があります。
文書は上司と従業員双方の署名を原則とし、署名拒否の場合は立会人の署名を残します。従業員がコメントを追記できるようにすることも、対話が行われた証拠として有効です。
4. 一貫性を保つ
同じ、または類似の職種には、同等の期待値を設定し、すべての従業員を公平に扱いましょう。
お気に入りの社員であっても、対応に苦労する社員であっても、原則は同じです。ただし、個々の事情に応じて業務遂行に必要な柔軟性を認める余地は残すことが大切です。
私の基本的なアドバイス——一貫性、文書化、そして職務上の本質的要件に焦点を当てること——は、25年以上の人事コンサルタントとしてのキャリアを通じて変わっていません。
しかし、近年の判例、大統領令、行政指針、そして社会の分断が進む状況を踏まえると、これらの原則は、これまで以上にすべての企業にとって重要なものとなっています。