家族経営の印刷会社において、事業承継とは単に肩書きを引き継ぐことではない。そこに必要なのは信頼であり、時間をかけて築かれる尊敬である。そして何より、「家族」と「ビジネスパートナー」という二つの関係性をどう両立させるかという課題でもある。
今回のDscoopラウンドテーブルでは、米フィラデルフィアのToday’s Graphics Inc.(TGI)の創業者であり、Dscoop初代会長を務めたジャック・グラッケン氏、同社でサプライチェーン・オペレーション担当ディレクターを務めるジャック・グラッケン三世氏、そしてモデレーターを務めるケルビン・ゲージ氏が登壇。終始和やかな雰囲気の中、次世代リーダーとしての歩みや家族経営の本質について率直な対話が繰り広げられた。
語られたのは、受け継がれる企業理念、謙虚さ、そして大切なものを家族とともに築き上げていくことへの静かな誇りだった。
ジャック氏は、事業承継する側とされる側、その両方を経験してきた人物だ。自身も父親の後を継いで事業に加わり、その後は1977年に父親が創業したTGIへ自身の息子たちを迎え入れた。
家族が会社で働くことは、義務ではなく「思いやり」の表れだと彼は語る。同じ責任感と誇りを持って会社に向き合う人が増えることで、より多くの社員が会社の未来に当事者意識を持ち、企業文化を守り、毎日「会社をより良くしたい」という思いで仕事に取り組むようになるという。
一方、ジャック・グラッケン三世氏は2009年にTGIへ入社。製本部門からキャリアをスタートさせ、カスタマーサービス、オペレーションを経て、現在はサプライチェーン部門を率いている。
「創業家の一員だからといって、信頼が自動的に得られるわけではない」と彼は早くから理解していた。周囲からの信頼は、謙虚さ、努力、そして一貫した行動によって積み重ねるもの。社員には「創業家だから」ではなく、「仕事ぶり」で評価される存在でありたいと考えてきた。
そうした姿勢は、父子の関係にも表れている。二人は仕事上で大きな衝突はほとんどないと語る。その理由は、お互いの役割が明確であり、深い信頼関係が築かれているからだ。
ジャック氏は、息子が顧客との関係構築や経営戦略をリードする姿を誇らしげに語る。一方、ジャック三世氏も、特にDscoopでの活動を通じて、「父は本当に優れた経営者だった」と実感したという。互いへの尊敬は双方向であり、それと同時に責任感も共有されている。
対談の根底には、家族ならではの感情も流れていた。
自身も父親の事業を引き継いだ経験を持つケルビン・ゲージ氏は、父を亡くした経験に触れ、「こうした対話を、話せるうちに記録として残せることには大きな意味がある」と率直な思いを語った。
その言葉をきっかけに、話題は単なる事業承継から、「感謝」へと広がっていく。
家族経営企業が受け継ぐのは、経営戦略や数字だけではない。そこには家族の記憶があり、自分を育ててくれた人とともに働けるという、かけがえのない時間がある。
こうした考え方こそが、Dscoopが「NextGen Club」を立ち上げた理由でもある。このコミュニティでは、次世代リーダーたちが互いにつながり、信頼の築き方や、自社の伝統を守りながら変革を進める方法、そして先代から受け継いだ事業をどう発展させていくかといった共通の課題について学び合っている。
ジャック氏が父から受け継いだ教えは、とてもシンプルだった。
「お客様を大切にし、正しいことをする。」
そしてジャック三世氏が大切にしている教えもまた、明快である。
「自分の力で信頼を勝ち取ること。」
その二つの教えが交わるところに、真の次世代リーダーシップが生まれるのかもしれない。